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続・耳の手術

―前回までのあらすじ―
先天性耳瘻孔(じろうこう)とは、生まれつき耳たぶに小さな穴が開いていて、そこが腫れたり膿んだりする病気である。
その耳瘻孔を治そうと一念発起した私は、耳鼻咽喉科専門・K病院で診察を受け、手術をすることになった。
もともとが大した病気でもないし、ごく軽い調子で「手術しましょう」という女医先生の態度からしても、ちょっと耳を切るくらいのもんだろうと踏んでいた私。だがその期待は、裏切られることとなる。
今や私は、点滴と血圧計と心電図モニターをつけられ手術台で横になり、先生の執刀を待つ、「まな板の鯉」的状態なのであった。
(詳しくはこちら

まずは消毒。消毒液を含ませたガーゼで耳をふかれる、冷たい感触。
「それでは、麻酔の注射を打ちます。針を刺す時、ちょっと我慢してくださいね」
耳たぶに、チクッとした鋭い痛み。

何しろ目隠しをされ、視界はゼロなのである。自分の置かれている現状を判断する材料は、耳から入ってくる情報だけだ。
先生や看護婦さんも、そのへんは分かっているのだろう。今は何をしているとか、次は何をするとか、逐一説明してくれる。
…ただ、説明があるぶん、もどかしくもある。
手術の様子など、見たくもない…という人も多かろうが、そういうの、私はしっかり見たいと思う方だ。
長い間、それなりに悩まされてきた病気である。その正体を、ちゃんと自分の目で確かめたいじゃないか。

「そろそろ、麻酔が効いてきたころでしょう。それでは、はじめます。痛いようだったら、おっしゃってください」
そう言う先生の手には、きっとメスが握られているのだろう…などと想像しているうちに、耳たぶに感触。それと、かすかな痛み。
我慢できないほどではないが、ここは、我慢してちゃいかんのじゃないかな?
「あの、ちょっと痛いんですけど」
「はいはい、それじゃ、麻酔を追加しましょう」
再度、麻酔注射。
「まだまだ、打てる麻酔の量には、余裕がありますからね。痛かったら遠慮せず、ちゃんと知らせてください」
それなら安心…って、そんなにじゃんじゃん麻酔を追加しなくちゃいけない手術の状況も、よく考えるとコワイなあ。

改めて、執刀開始である。今度は、痛みも何も感じない。
「痛くないですか?」
「はい、大丈夫です」
何も感じない中、ザク、ザクという音だけが、耳元で聞こえる。メスが、私の耳たぶを切り開いていく音だ。
先生にとっては、慣れた手術なのだろう。手を動かしながらも、口は世間話まじりである。
「どちらからいらしてるんですか?」
「今日、仕事は休み?」
「この病院、待ち時間が長くて大変でしょう」
特に力説するのは、「男の人は、たいがい痛みに弱い」という話だ。
リッパな大人の男でも、検査用の採血だけで貧血を起こしたり、私と同じ耳瘻孔の手術を受ける男性患者でも、迷わず全身麻酔を選ぶ人がいたり。
それに比べて、あなたはけっこうガマン強い…と、ほめてくれる。自分では普通だと思うのだが、ほめられて悪い気はしない。
…とかいって、これも患者に痛みを我慢してもらって、手術を円滑に進めるための、医者の作戦なのかもしれないが。

しばらくすると、先生の口数が少なくなってきた。
世間話のタネも尽きたのか…と思いきや、そうではないらしい。
かわって聞かれるようになってきたのが、「これは、大きいなー」というつぶやき。

ここで、耳瘻孔という病気の手術について、簡単に説明しよう。
耳瘻孔による耳たぶの穴は、表面的には針でつついたほどの小さなものであっても、その内部は袋状に大きく広がっていることがある。
特に、治療を要するものはたいがいそう。なんというか…アリの巣のようなものをイメージしてもらえば、分かりやすいかと思う。
その穴の入り口から中の袋まで、そっくり取ってしまうというのが、耳瘻孔の手術だ。
万が一、取り残しがあると、そこから再発の危険がある。かといって、太い血管や耳の軟骨を、大きく傷つけるようなことがあってはいけない。
手術の内容はシンプルでも、技術は熟練を要する。

問題は、その穴の内部の大きさが、手術をしてみてはじめて分かる、ということだ。
レントゲンに写るような性質のものではないし、穴の入り口は小さいから、中に器具を入れて確かめることもできない。
結局、穴がどこまで広がっているかは、切ってみなきゃ分からない。

どうも先生のリアクションからすると、私の耳瘻孔は、大きい方だったらしい。
「だいぶ、広がっちゃってますね」
しかも、過去に炎症を繰り返した結果、穴の一部が軟骨に癒着しているのだという。
「もちろん、ちゃんときれいに取れますけど…」
なんだかよくは分からないが…先生が苦労している様子は、こちらにも伝わってくる。
しまいには、
「やっぱり、全身麻酔の方がよかったかなあ
などと言い出す始末。
聞けば、「これでも、気を遣っているんですよ」とのこと。
そりゃそうか。局所麻酔だと、常に麻酔が切れないようコントロールしなきゃいけないし、そうじゃなくても、患者がつい身動きしてしまうとか、そんなことへの対応も必要だろう。
医者からしたって、全身麻酔の方が手術がしやすいわけだ。

全身麻酔がよかったかな、と思わせる理由は、実は私の方にもあった。
それは、痛みや恐怖心などではなく…やはり、同じ姿勢を保っているつらさである。
手術台に仰向けに寝転がり、右耳を見せるため、頭だけをちょっと左に傾け…しかも「今、血管のそばを切ってますからね。慎重に進みます」などと言われると、万が一にも動かないよう、首筋に力が入る。
5分や10分ならいいが、こう長時間になってくると、さすがに苦行である。

かといって、今さら中止にはできないし、全身麻酔に切り替えることも不可能。
それは、お互いに分かっている。
スタートしてしまったマラソンランナーのごとく、ゴール目指してがんばるしかない…いやまあ、がんばるのは先生なのだが

「…取れました」
先生の声。やれやれ、助かったー。
あとは、消毒、縫合…最後に創部が耳たぶごと厳重に覆われ、手術は終了した。
「はい、お疲れさまでした」
看護婦さんに言われて、半身を起こす。
首を、ぐるっと一回。イタタタ…まるで、ひどい寝違えだ。
壁の時計を見ると、手術開始から、1時間40分…予定より、ずいぶんと長引いたもんである。

「はい、これ」
と先生が示したのは、小さなビンの中でホルマリン漬けになった…たった今摘出したばかりの、私の耳たぶの病巣だ。
その、球状の赤黒い固まりは、およそパチンコ玉ぐらいの大きさ。これが、私を長いこと悩ませてきた耳瘻孔か。
こうして体から離れてしまったと思うと、さすがにちょっと寂しい…わけはないが。

抗生物質と痛み止めを処方してもらい、3日後の再来院を約束し、ようやく開放。
先生によれば、当日はともかく、翌日からは普通にしていてかまわないそうだ。特に食事制限や禁止事項もないし、患部を濡らさなければ、風呂に入ってもOK。

…とか言われても、何かしようって気も起こらんよなあ。
などと、ガーゼとテーピングでぐるぐる巻きにされ、麻酔が切れて痛みはじめた右耳を抑えつつ、私はとぼとぼと家路についたのであった。

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コメント

初めまして!実は私も長い間先天性耳瘻孔をわずらってまして、興味深く記事拝見しました!
最近はうみが腫れてかなり痛くなることもあるので、思い切って手術をしようと思っているところでした。

もしよければ手術をされた病院を教えていただけませんか?なるべく安心していける病院がよいので検査を受けに行ってみたいと思います。リンクしましたメールアドレスにお教えいただければ幸いです。

投稿: ゆず | 2008.04.12 00:47

ゆずさん、こんにちは。

耳瘻孔のつらさは、よーくわかります。
病院の名前など、メールにて送らせていただきますね。

投稿: 谷豊 | 2008.04.17 01:33

こんばんは。

先天性耳瘻孔で同じく悩んでいるカブと申します。
今現在、手術しようか迷っているんですが
この日記を読んでどんな感じなのかが何となくわかった気がしました。

同じくもしよければ手術をされた病院を教えていただけませんか?なるべく安心していける病院がよいので検査を受けに行ってみたいと思います。
メールアドレスにお教えいただければ幸いです。
ヨロシクお願いします。

投稿: カブ | 2008.10.03 22:23

カブさん、こんにちは。
耳瘻孔の悩みはよーくわかります。
メール送らせてもらいますね。

投稿: 谷豊 | 2008.10.10 21:39

初めまして こんばんは。

私も耳瘻孔手術したいんですが 耳瘻孔で検索すると子供の手術が多くてどんなものかと悩んでいました。今回自分のことのようにドキドキしながら 読ませていただきました。

私も 病院のお名前教えて頂けたら幸いです。

最後に麻酔切れた痛みはどのくらいでしたでしょうか?

投稿: 上原 | 2008.11.29 02:21

> 上原さま。

こんにちは、はじめまして。
コメントありがとうございます。
リアクションが遅くなり失礼いたしました。

病院の名前につきましては、
メールにてお知らせさせていただきます。
麻酔が切れたときの痛みは…
今となってはあまり憶えていないくらいですので、
我慢できないほどではなかったはずです。
個人差はあると思いますが。

それよりも、耳を覆ったガーゼが気になりましたね。
寝ているときなど、無意識のうちに
外そうとしてしまったこともありました。

投稿: 谷豊 | 2008.12.03 20:52

谷豊様 
はじめまして

耳瘻孔、手術のワードで検索していたらトップに出てきたので飛んできました。おなじく耳瘻孔に長年悩まされていて、できれば私も手術をしてこの悩みから解放されたいと願っています。

お手数ですが病院の名前をお教え願えないでしょうか?
よろしくお願いします。

投稿: 鴨下 | 2009.04.04 23:25

> 鴨下さま

こんにちは、はじめまして。
耳瘻孔のつらさは、よーくわかります。
病院の詳細は、メールにてお知らせさせていただきますね。

投稿: 谷豊 | 2009.04.05 01:44

はじめまして、『耳瘻孔 手術』で検索していて、こちらの日記を拝見させていただきました。
私は両耳とも耳瘻孔があり膿が出るので手術を考えておりました。

お手数ですが、病院名を教えていただきたく思います。
その際、覚えていたらで結構ですが、手術費用等がわかりましたら教えていただきたいです。
よろしくお願いいたします。

投稿: 藤崎 | 2009.04.09 22:27

> 藤崎さま

病院名は、メールにてお知らせさせていただきますね。
手術費用はよく憶えておりませんが、もちろん保険適用でそんなに高くはなかったと思います。

投稿: 谷豊 | 2009.04.12 19:10

家の娘も先天性耳漏孔で手術を勧められています。何回か切開しています。今回も切開4回目ぐりです。普通の耳漏孔と違って耳の真ん中に穴があり耳の後ろを切開しています。むずかしい手術だと思うので上手な病院を探しています。病院教えてください。

投稿: 小林えりこ | 2009.12.03 16:06

> 小林えりこさま
ご心痛お察しします。
病院名はメールにてお知らせさせていただきますね。

投稿: 谷豊 | 2009.12.05 18:26

私も今耳じろうに悩んでいるのですが手術の費用はいくらくらいでしたかsign02

投稿: 名無し | 2009.12.19 21:36

> 名無しさま
前にもコメントしました通り、だいぶ前のことなのでよく覚えてないのですが…手術前後の通院込みで1~2万円ぐらいだったかと。
保険適用なので、そんなに高くはないはずです。

投稿: 谷豊 | 2009.12.20 03:08

谷豊 様

初めまして、榎本と申します。
「耳瘻孔」で検索し、こちらにたどり着きました。
手術をされた際の顛末、非常に興味深く読ませていただきました。
私も30年以上耳瘻孔に悩まされておりまして、これまでにも何度か取ってしまいたいと思ったこともあったのですが、
その度、やはり仰られますような

「開けてみないと程度がわからない」
「深いと軟骨に達して取れないこともある」
「意外と難しいらしい」

などの情報の中で、なかなか決心がつかないまま今に至ってしまってるといった状況です。
臭いを伴う分泌物は場合によっては困る場面もありますし、
やはり取れるものなら取ってしまいたいと思っています。

谷様は非常に良い病院、医師の方と巡り会えたとのことで、
私も耳瘻孔に精通した医者であれば安心して臨むことができます。
不躾なお願いで申し訳ありませんが、是非私にもその病院を教えて頂けませんでしょうか。
何卒よろしくお願いいたします。

投稿: 榎本和馬 | 2010.11.07 17:14

>榎本和馬さま
こんにちは、はじめまして。
リアクションが遅くなり失礼いたしました。

お悩みよくわかります。
病院の件はメールにてお知らせさせていただきますね。

投稿: 谷豊 | 2010.12.13 18:50

>榎本和馬さま
ご記入いただいたメールアドレスにメールを送信しましたところ、
エラーとなりました。
別のメールアドレスを教えていただければ幸いです。

投稿: 谷豊 | 2010.12.13 20:39

初めまして、耳ろうこうの手術ができる病院を探して、本サイトに辿り着きました。
普段はなんともないのですが、ストレスが多くなると化膿することがあり、切除するか悩んでいます。
こちらの記事を興味深く拝見させていただきました。
差し支えなければ、病院名を教えていただけませんか?宜しくお願いします。

投稿: oko | 2010.12.31 07:50

okoさん、こんにちは。はじめまして。
耳瘻孔のお悩み、お察しします。
病院名はメールにてお知らせさせていただきますね。

投稿: 谷豊 | 2011.01.03 00:04

こんばんは。
28歳の男です。
私も耳漏孔で悩んでます。恥ずかしながら手術とかもとても恐いです。。。
優しい先生に相談に乗ってもらいながらリラックスして・・・が理想ですが、色んな情報で恐いんです(笑)
どうか手術を受けられた病院・先生のお名前を教えてください!
耳たぶも切るのですか?手術は恐怖ですか?

投稿: ひろ | 2011.02.01 23:07

はじめまして。

生まれてから30年以上たって初めて耳ろう孔による炎症を発症し、この度5年ぶりに再び発症しました。
お医者様から手術を勧められましたが、入院が必要かもと言われ、小さいコドモ達を抱えているし耳を切るなど恐ろしいし、どうしたものかと悩んでおりました。

そんな中での谷さんのこの記事は大変参考になりました。
また、同じように悩んでいらっしゃる方が意外と多いことがわかり、驚きました。

がんばって手術を考えてみようかと思います。
ありがとうございました(^-^)!

投稿: サク | 2011.03.10 02:23

はじめまして。私の娘(小学校高学年)が耳漏孔で毎年腫れと多少の痛痒さを感じ、通院してきました。抗生物質などで、治るのですが、ブログを拝読致しまして、手術を考えるようになりました。ぜひ、病院名と担当医の先生のお名前(沢山いる場合)を教えて頂けないでしょうか?

投稿: Kitagawa | 2011.05.18 08:10

コメントくださった皆さま、ありがとうございます。
最近はツイッターばかりでブログは半放置のため、
対応が遅くなり申し訳ありません。

>ひろさん
手術は「切る」というか、患部を「取り出す」イメージでしょうか。
切開する大きさはかなり小さめなのではと思います。

>サクさん
手術は日帰りでも可能かと思いますよ。
がんばってください!

>Kitagawaさん
娘さん心配ですね。
症状は軽度なのではと思いますが。

なお病院と担当医については、
メールにて皆さまに送らせていただきますね。

投稿: 谷豊 | 2011.05.21 16:16

谷様

お忙しい所、ご連絡ありがとうございました。早速、教えて頂いた情報を家内に知らせたいと思います。

投稿: kitagawa | 2011.05.22 14:07

お忙しいところ申し訳ありません。
耳ろう孔のことで検索していたところ本サイトに辿り着きました。
今、10歳の息子が赤く腫れ膿が溜まりあまりの痛さに夜中に大泣きすることもあります。
過去 耳鼻科に診察に行ったところ、いじらないように言われました。今年 初めてここまで酷くなり、注射器で膿をとりました。大きい病院で手術を勧められ紹介状を手に行きましたが、手術内容が炎症を起こしている皮膚を穴と一緒に5㎜ほどの厚さでえぐり眼の方から皮膚を引っ張って縫合するので顔が変わる!と言われ、手術をして楽にしてあげたいと思いつつ内容を聞いて手術に踏み出せないでいます。
でも本サイトを通して改めて手術に向き合おうかと思う次第です。病院名・担当医の名前を教えて下さい。お願いします。

投稿: | 2011.07.28 00:02

対応が遅くなり失礼いたしました。
メールお送りします。

投稿: 谷豊 | 2011.10.18 00:45

はじめまして。

私は両耳に耳瘻孔があり子供の頃に耳鼻科で膿を排出して貰う事が何回かあり手術の経験はないのですが、最近になって左耳の耳瘻孔が腫れてきて痛痒さがあります。手術を検討しているのですが、なかなか病院が見つからずに困っております。
こちらのブログを拝読致しまして、手術をして下さる病院があるとの事ですので、是非病院名及び担当医の先生のお生を教えて頂けないでしょうか?お手数をお掛けしますが宜しくお願い致します。

投稿: 佐藤 | 2016.10.18 10:55

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