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耳の手術

先日、待ち時間の長い耳鼻咽喉科病院の話を書いた。
それでは、なぜその病院に通っているのかというと…実は、耳の持病を、手術で治すためなのである。

その持病とは…先天性耳瘻孔(じろうこう)。
生まれつき、耳の周囲の皮膚に小さな穴があいている、というものだ。例えるなら、貫通していないピアス穴、とでもいったところか。
私の場合は、右耳たぶの前部にひとつある。外見は、ぽつんとごく小さな穴である。

聞くところによれば、この穴を持っている人は、100人中数人にもなるという。学校なら、クラスにひとり以上、という勘定だ。けっこう多いな。
とはいえ、私は、自分以外に耳瘻孔の人を知らないが…まあ、人の耳たぶなんてまじまじと見ることもないし、そんな自分の病気を、宣伝して歩く者もないだろうけどね。

ピアス穴が特に問題ないのと同じで、この耳瘻孔も、そのままなら放っておいて害のあるものではない。
だが、ピアス穴と違って出口がないものだから、バイ菌が感染しやすく、腫れたり痛くなったりすることがある。
一度そうやって化膿すると、あとは悪循環。穴の内部が袋状に広がってしまい、よりひどい化膿をおこすようになってしまうのだ。

私の場合は、それほど悪くはないのだが、時おり小さく腫れたり、痛痒くなったり、膿が出たりする。
その膿がけっこう臭かったりするのだが…それ以外は、日常生活に支障はない。

支障がないとはいえ、やはりうっとうしいことはうっとうしい。
そんなうっとうしい生まれつきの病気を、それではなぜ、今まで治さなかったのかといえば…。

実は過去にも、何度か耳鼻科で相談したことはあるのだ。
だが、これまでかかった医者のリアクションは、あまり芳しいものではなかった。
曰く…
「治すのは大変だよ。手術で取らなきゃいけないから」
「そんな、手術してまで治すもんじゃない」
挙句の果てには、
「これの手術は、けっこう難しいんだ。失敗すると、耳たぶを失うこともある」
…おいおい、本当かよ。医者が患者を脅かしてどうする。

というわけで、どうにも治そうという気にならないまま、ン十年…。
最近になって、そんな私の気を変えるきっかけがあった。

といっても、そんな大きな出来事ではない。
今年の春から新しく通いはじめた、近所の耳鼻科・Jクリニックである。
(ちなみにそこに通っているのは、耳とは別の理由なのだが)
その医院の先生は、けっこう若いだけに先進的な治療を取り入れていたり、なかなか優秀な感じである。こちらの話も、親身になって聞いてくれる。
この人ならと、耳のことを相談してみる…「それなら、いい人がいるよ」と、紹介してもらったのが、今回手術を執刀してもらう、耳鼻咽喉科専門・K病院の女医先生なのであった。

時は9月。その、K病院の診察室。
「手術しましょう。これはもう、きれいに治りますから」
私の耳を診察するなり、テキパキとした口調で、女医先生はそういった。
なんとまあ、頼りになりそうな人である。これなら安心。

そして、決定した手術日は11月。
なぜそんなに間をあけたかというと、11月になれば草野球のリーグ戦が終わっているから…では、もちろんなくて、女医先生のスケジュールの都合である。
もしその11月を過ぎると、次に手術可能なのは、年末近くだそうだ。人気のある先生で、ますます心強い。

さて、そんなこんなで、手術当日である。
私は、けっこう気楽に構えていた。
手術といっても、耳をちょっと切るくらいのものだろう。メスでピッとやって、悪いところを取って、ちょちょっと縫って消毒…そんな感じか。
その時の私には、知る由もなかった…自分の見通しが、いかに甘いものかということを。

看護婦さんに名前を呼ばれ、いつもと違うフロアに案内される。
待合室の喧騒とは異なり、その廊下は、妙に静まりかえっていた。
奥の一室に通される。ロッカーが並ぶ、小さな更衣室だ。
「これに着替えてくださいね」
手渡されたのは、手術着というのか、薄っぺらいタオル地の浴衣のようなものと、頭を覆うキャップである。
「Tシャツなんかは、着てていいんですか?」
「下着一枚だけ身に着けて、あとは脱いでください」
なんだか、いやに本格的だなあ…などと思いながら、パンツ一丁になって手術着に袖を通す。

次に連れて行かれたのは、いよいよ手術室だ。
中央にベッド、上に大きなライト、周りに各種器具、壁には時計…「白い巨塔」で見た、そのまんまである。
「それでは、ベッドに寝てくださいね」
横たわった私の、左腕には点滴の針が刺される。右腕には血圧計のバンドが巻かれ、最後に、胸に心電図モニターの電極が張りつけられた。
「点滴も心電図も、今回の手術では特に必要ないんですけどね。まあ、一応…」
必要ないなら、なぜつけるのか? 一応って、何が一応なんだ?

私は、手術が決まった時の女医先生の質問を思い出した。
つまり、手術を全身麻酔で行うか局所麻酔で行うか、という問題である。
先生が言うには、別にどちらでもいいそうだが…。
私は迷わず、局所麻酔を選択した。
全身麻酔は、寝ているうちに手術が終わるのだから、確かに楽だろうが…なんだか、妙にコワイ。
テレビ番組の「トリビアの泉」によると、「全身麻酔がなぜ作用するのか、未だ医学的には解明されてない」そうだし。へー。

そのことを後悔したわけではない…が、現在の、これ以上はない「まな板の鯉」状態は、やはり不安である。
そうこうしているうちに、
「ライトがまぶしいですから」
と、今度はガーゼで目隠し。しかも全身にシーツを被せられ、右耳だけが露出した状態に…。
動きの自由はおろか、視界まで奪われた私の耳に、遅れてやってきた女医先生の声が入ってきた。
「お待たせしました。それでは、はじめましょうか」

―長くなってきたので、この項続く―

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